しぃの本棚

つぶろ小説(腐要素含む)をマイペースに投稿中。

The Bad Day...?









兄さんお誕生日話。御三方出てきます。

乙さんに呼び出される兄さん(腐要素ありません)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

『あ、兄者くん?ごめんねいきなり電話して』

「いや、別に大丈夫だけど。ゲームしてただけだから」

 

休日の夕方、家でゲームをしていると誰かからの着信を知らせる振動音が鳴り響いた。

ひとまずゲームは一時中断して机の上のそれを手に取ると、ディスプレイには【おついちさん】の文字が。

電話に出るとおっつんは突然の電話を詫びる様な申し訳なさそうなトーンで俺の名前を呼んだ。

 

「んで?どうしたんだよ」

『あ、そうそう。悪いけど今から俺ん家来てもらうことできる?』

「随分いきなりだな」

『そうなんだけどさ…ダメ?』

「いや、いいけど…今から準備するからわりと時間かかるかもよ?」

『あーうん、それは大丈夫。ゆっくりでいいから。弟者くんも多分まだかかるだろうし』

「なに、弟者も来んの?」

『来るよ。俺が呼んだからね。ちょっと三人で…ま、詳しい話は後でするから悪いけど準備して来てくれ。それじゃ』

「あ、ちょっとおっつ………

 

………切れた」

 

あの人、一体何を慌ててるんだ?

 

通話の終了を知らせる画面を見つめてしばし疑問に思ったものの、すぐにソファの上に放り投げて代わりに今度はコントローラーを手に取った。

 

「やべ、ちゃんとセーブしとかねぇと」

 

 

 

 

 

 

部屋着を着替え、だらしない寝癖がついたままだった髪をセットする。

 

ふと、出掛ける前にPCを触りTwitterを開くと、数時間前に呟いた俺のツイートに数え切れない程のいいねやリプライが付いていた。

その中には三人称やメロさん、ちんさん、加齢さん達の名前もあった。

皆それぞれに『おめでとう』という意味合い(中には違う人も居るけども。ふざけんなコノヤロー)のメッセージをくれていた。

 

 

そう、今日は俺にとって“そういう日”なのだ。

だからきっと、おっつんが俺を呼んだのも“そういうこと”に違いない。

(そういえばあいつらからLINEもTwitterのリプも来てねぇもんな)

 

いや、別に欲しい訳じゃないけどね?

 

自分で自分にツッコミを入れながら、俺はTwitterを閉じてPCの電源を落とし、鍵を手に取ると部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

『あ、兄者くんごめんね急に』

 

玄関の扉を開けたおっつんはさっきの電話と変わらない、申し訳なさそうなトーンで俺を出迎えた。

 

『弟者くんもう来てるから。入って』

 

促されるまま部屋へ入ると、リビングのソファに座りiPhoneをいじっていた弟者が俺に気付いた。

 

『あ、兄者』

「おう」

 

上着を脱いで隣に座ると弟者は手に持っていたそれを置き、俺の顔をまじまじと見つめながら少し小声で、かつ早口に俺に尋ねてきた。

 

『ねぇ、おついちさん何か変じゃない?』

「変って、なにが」

『いや、なんか…急に俺に電話してきて『今から俺ん家来てくれない?』って言ってきたんだけど、理由聞いても教えてくれないんだよ。『兄者くんも呼んでるからその時言うよ』ってだけしか言わないの』

「あぁ…俺に電話してきた時もそんな感じだったな。何か焦ってたっていうか」

『でしょ?絶対なんか変だよ』

「変、ねぇ…」

 

 

俺はふと考えた。

 

二人して俺を呼び出したのかと思っていたがどうやら弟者の様子を見ているとそうではないらしい。

とすると、おっつんは本当に俺達に何か話があって呼んだ事になる。

しかも、あの様子だとどうやらHappyな話題ではなさそうだ。

 

 

嫌な予感がした。

 

 

弟者の表情を見るに、きっとこいつも同じ事を考えているに違いない。

 

『ねぇ、兄者…』

 

弟者が口を開いた瞬間、

 

ガチャッ

 

リビングのドアが開いておっつんが入ってきた。

 

『ごめんね、二人とも。突然呼びだしておいてお待たせして』

 

やはりその声にいつもの明るさはなくて、ますます俺の中で嫌な予感が膨らむ。

 

『でもよかった、二人とも来てくれて』

『いや、それは別にいいけど…おついちさん、俺達を呼んだ理由は?』

『あぁ、うん…そうだね』

 

おっつんは何かを考えるような、躊躇うような、そんな素振りを見せて、そして一呼吸置いた後、俺達に言った。

 

 

 

『実は今度、仕事で海外に移住する事になったんだよ』

 

『…え?』

 

『知り合いの紹介で、海外の企業からうちで仕事しないかって誘われたんだよね。現地に行って向こうで生活しないといけないから、しばらく日本には戻らないつもり』

 

『ちょっと待っ…』

 

『別に海外からでも君らとゲームする事はできるかもしれないけど、さすがに編集しながらプレイしながらってのは…』

 

『おついちさんっ!!』

 

 

堪らず弟者が立ち上がって声を荒らげた。

 

 

それ以上言うな、とでもいうような大きな声だった。

 

 

『…なに?』

 

『なに、じゃないでしょ!!そんな話俺達聞いてないよ!?』

 

『そりゃそうでしょ、今初めて言ったんだもの』

 

『待ってほんと意味わかんない、何言ってるの?え、俺達、もう一緒に居れないの?』

 

『まぁそういう事だね』

 

『………嘘、だ………』

 

 

ドサッ、と弟者の大きな身体から力が抜けてその場に座り込む。

 

俺はただそのやり取りを呆然と見ているしかなかった。

 

 

おっつんが、居なくなる?

 

 

嘘だろ?

 

 

エイプリルフールは先月だぜ?

 

 

なぁ、おっつん。

 

 

嘘だって言ってくれよ。

 

 

「、ッ」

 

 

言葉が出てこない。

 

 

まるで喉がヒリついたように息がうまく吸えない。

 

 

心臓がバクバクする。

 

 

俺は、

 

 

俺はどうしたらいい?

 

 

「…、なんで」

 

辛うじて絞り出した声を必死に言葉にする。

 

「なんで、俺達に相談なく決めたんだ」

 

『うん、まぁ、そりゃそうなんだけどね。けど二人に言ったところで引き止めるのは目に見えてるじゃない?なんていうか、めんどくさいなーって思ってそういうの』

 

 

平然と言ってのけるおっつん。

 

 

その言葉に俺はトドメを刺された気分だった。

 

 

ズドン、と心臓を撃ち抜かれたような、致命的な一撃だ。

 

 

あぁ、どうしよう。

 

 

泣いてしまいそうだ。

 

 

『おい待てよ、めんどくさいってなんだよ』

 

気付けば隣で弟者が立ち上がっていた。

 

そしてそれは俺が見ても誰が見てもわかるくらいに怒気を放っていた。

 

『なに、なんで怒ってんのキミ』

『ふざけんなよお前、さっきから聞いてりゃ自分勝手な事ばっか言いやがって挙句の果てに俺と兄者の事めんどくさいだぁ?いい加減にしろよ』

『チッ…これだからめんどくさいって言ってんだよ』

『あぁ!?』

 

明らかに不機嫌になるおっつん。

 

二人とも今にも掴みかかりそうな勢いだが、俺は情けない事に身体が動かない。

 

やめろ、と言いたいがその言葉すらも出なかった。

 

もはやただ二人のやりとりを見守るしかない。

 

 

『そもそも今まで黙ってたけどなぁ、俺はお前ら兄弟に言いたい事たっっくさんあるんだよ!』

『はぁ!?なんだよ、言いたい事あるなら言えよ!!』

『あーはいはい、言われなくても言ってやるよ!!弟者お前、今日が何の日か知ってんのか!?』

『はぁ!?知ってるに決まってんだろ!今日は兄者の誕生日だよ!!お前こそ知ってたのかよ!!』

『当たり前だろ、俺が兄者の誕生日を忘れる訳ねぇだろ!!』

 

 

………ん?

 

 

『あーそうかいうかい!!それじゃあおついちさんは勿論プレゼントは用意してるんだろうなぁ!?』

『なに馬鹿な事言ってるんだよお前よりすげぇもん用意してるに決まってんだろうが!!』

 

 

………おい、ちょっと待て。

 

 

『それよりおついちさん、そろそろネタばらしした方がいいんじゃねぇのか!?』

『あぁそうだな!!それじゃせーのでいくぞ!!

 

せーのっ、

 

 

 

 

『『兄者、誕生日おめでとう!!』』

 

 

 

 

 

 

シーン

 

 

 

 

 

『………あ、あれ?』

『………弟者くん、見て。兄者固まってるよ』

『うわホントだ…おーい兄者ぁ?』

『ちょっとビックリさせすぎたんじゃない?』

『えーだって、毎年勘づかれてるから今年は逆にビックリさせてみようぜって言ったのはおついちさんでしょー?』

『いやそうだけどさぁ、俺ら喧嘩してる時の兄者くんの顔見た?ものすっごい悲壮な顔してたよ?』

『マジ?俺演技に集中しすぎてあんま見てなかったわー。だっておついちさんとあんな風に喧嘩する事ないからなんか難しくってさぁ』

『ま、俺ら基本的に仲良しだからねぇ』

 

「へぇ………仲良し、ねぇ………」

 

二人の肩をポンッと叩き、俯いていた俺がそっと顔を上げる。

 

その顔を見るやいなや二人の笑顔がみるみるうちに引き攣り恐怖していく。

 

俺は満面の笑みで言ってやった。

 

「…………お前ら………

 

 

ちょーっと1回、そこに仲良く正座しようねぇ…?」

 

ヒッ、と小さな悲鳴が聞こえたが、無視してやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「…要するに、俺に誕生日のサプライズを気付かれたくないが為に二人で手を組んでしょーもないクソ芝居を打った、と」

『『ハイ』』

「おっつんが俺に電話してきた時から既に芝居は始まっていて」

『ハイ』

「先におっつん家に居た弟者は俺が何も知らずに来るのをニヤニヤしながら待ってた訳だ」

『ハイ』

「そんで計画通りに騙された俺がショックを受けてる様を見てお前らは内心ゲラゲラ笑ってた、と」

『『スンマセンデシタ』』

「すんませんでしたで済むと思ってんのかコノヤロウ」

『『ホントスンマセンデシタ』』

 

仁王立ちの俺と土下座する二人。

 

ったく、しょーもない事しやがって…

 

『あの、兄者さん』

「なんだよおっつん」

『あのですね、わたくし達プレゼントを用意しておりまして、是非お渡ししたいのですが宜しいでしょうか』

「…見せてみろ」

『はっ…有り難き幸せ』

 

差し出された袋を開けると、それぞれ新しいヘッドセットとコントローラー(しっかり青色)、それにフィギュアとそれを並べるためのケースが入っていた。

 

『兄者、欲しいって前に言ってたから…俺達二人で買いに行って…ねぇ?』

 

そうだそうだ、とおっつんがブンブンと首を縦に振る。

 

正直、俺が欲しいと言っていたものばかりだ。

 

これはかなり嬉しい。

 

 

だが、

 

「言っとくけど、これで俺の機嫌が直ると思ったら大間違いだからね?」

 

ここで強固な姿勢を崩しては兄としての威厳がなくなってしまう。

 

耐えろ、俺。

 

『あの、兄者が好きなピザ、頼んでます』

 

耐えるんだ。

 

『食後のバースデーケーキも二人で選んで有名なパティスリーのやつ買ってきました』

 

耐えろ。

 

『冷蔵庫にコーラとお酒、キンキンに冷やして用意してます』

 

耐え………

 

『『機嫌直してくださいお願いします』』

『『兄者』』

『『お願いします』』

「だあぁぁぁもう!!わーったよ!!もう怒らねぇから!!」

『『ほんとに!?やったー!!』』

 

途端に二人に笑顔が戻る。

 

ったく、最初から大人しく祝えばいいものを…

 

 

ピンポーン

 

 

『あ、ピザ来たっぽいね』

『おついちさん俺出てくるね!』

 

バタバタと玄関まで元気よく走って行く弟者の後ろ姿を見送る。

 

とてもじゃないがさっきまで凹んでた奴とは思えない。

 

『けどさ、今回わかった事もあるよね』

「あ?なんだよ」

『兄者くんが本気で2BRO.を大切に思ってるんだなぁって事だよ』

「はぁ!?」

 

おっつんが俺の顔を見てニヤニヤしている。

 

くそっ、腹立つ顔しやがって。

 

『だってさ、俺が海外行くって言った時めちゃくちゃショック受けてたじゃん?実際ショックだったっしょ?』

「…別に」

『またまた~強がっちゃって!三人バラバラになったらどうしようって思ってたくせに』

「思ってねぇし」

『けど安心して。俺はこれからも時給10円20円でしっかり君達の動画を編集させてもらうからね!』

 

君達兄弟は俺が居ないとダメなんだからさ~、なんて言いながらおっつんは俺の背中をポンと叩くとリビングへと消えていった。

 

なんだよおっつんの野郎。

 

何か言い返してやりたかったが結構痛い所を突かれたので何も言い返せなかった。

 

今度ゲームでボッコボコにしてやるから覚悟しとけよ。

 

『あれ、どしたの兄者。顔赤いよ?』

 

ピザを両手に花状態の弟者が戻って来た。

 

『もしかしておついちさんに何か言われた?』

「…なんでもない。いいから早くそのピザ食わせろ」

『そうだねぇ冷めないうちに食べないと。おついちさーん!』

『はいはいちょっと待ってねー』

 

程なくしておっつんがリビングから戻って来たので、俺は手にしていたiPhoneを置いて目の前のグラスを手に取る。

 

『『それじゃ、改めて。

 

 

 

 

お誕生日おめでとう、兄者』』

 

「…サンキュー」

 

 

グラス同士がカチン、と鳴る心地いい音が部屋に響いた。

 

…ま、何はともあれ、この二人に祝ってもらえるなら悪くない夜になりそうだ。

 

 

 

Twitterの新しい投稿】

兄者:ピザとケーキでお祝いされてるなう。なんだかんだ言って祝ってもらうのは嬉しいもんだね。

 

END