しぃの本棚

つぶろ小説(腐要素含む)をマイペースに投稿中。

25cm(兄乙)

兄乙ほのぼの。何気ない日常。







午後の街の喧騒を完全に遮断した自宅のリビング。

ソファーに座る俺と、その隣に座る兄者。

兄者は手にした海外のサッカー記事が乗った雑誌をペラ……ペラ……とリズムよく捲る。

ページが捲れる音が心地よい程度には静かな室内。

対して俺は今は特にする事もなく、スマホを弄っては画面を消す、の繰り返し。

熱心に雑誌を読む兄者の邪魔をしたくなくて大人しく隣に座っている。




世間一般でいう【恋人同士】な俺達だけど、必要以上にベタベタしたり愛を囁きあったりはしない。

普通に飯食って、普通にセックスして、普通に寝て、普通に買い物に行って、普通にダラダラと過ごす。

休日は大体こんな感じで過ぎていく。



俺達にはこれが丁度、いい。







「あのさ」

何となく、口を開いた。

『なに』

依然目線は雑誌に向いたまま、兄者が返事をする。
ペラリ、とページが捲れた。

「いや別に何でもないんだけどね」

『なんだよそれ』

また一つペラリと捲られるページ。

少しの沈黙の後、兄者の手が次のページを捲ろうとする、その前に



「いや、あのさ……



 何十年経っても、君の隣にいたいなぁ」



一瞬、ページを捲る指が止まる。

が、すぐにペラリと紙の擦れる音。

目線は相変わず俺じゃなくて雑誌に落とされている。

あれ、もしかしてスルーされた?



『……それってさぁ』

顔を上げずに兄者が続ける。

『おっつんはほんとにそれでいいの?』

「……え?」

『いやだからさ、ほんとに隣に居たいと思ってんのって』

「あ、当たり前じゃん!」

『だってさ、オッサンだよ?何十年後と言わなくても十年後には確実にオッサンだよ俺ら。それでもいいの?もっと若いオネーチャンじゃなくていいの?』




兄者の言葉に思わず息を呑む。

俺のその様子を見てか見ないでか、兄者は先程までと同じように雑誌を捲る手を再開させた。

室内にはページを捲る音だけが響いている。

再び流れる沈黙。



「……俺は」

「俺は、兄者と居たいよ」


少し震える声で、さらに続ける。


「十年経っても、二十年経っても、オッサンになってもジジイになっても兄者とこうして並んでたい」

「……だって、兄者が好きだから」

「、だから……」



だからどうか、俺と一緒に生きて。



気が付けば兄者の指が俺の頬に触れていた。

『……馬鹿、おっつんなに泣いてんだよ』

「え……あ……」

『ったく、この人すーぐ泣いちゃうんだから』

温かい指先が俺の頬を流れる涙を優しく拭う。
どうやら自分でも気付かないうちに泣いていたらしい。

「っ、あに、ごめっ……」

『なに、寂しくなっちゃった?』

頭をポンポンと撫でてくれる兄者は先程までと違いこちらを見て優しく微笑んでいる。

手にしていた雑誌は丁寧に机の上に閉じて置かれていた。

「、だって、兄者は俺と居たくないのかと、思って」

『ちょ待て、俺がいつそんな事言った?』

「、だって、若いオネーチャンが、どうとかって」

『ハァー……あのな、おっつん』



ギュッと、兄者に抱きしめられた。

昨晩俺と同じボディーソープを使っている筈なのにどこか違う、兄者の匂いに途端に包まれる。


あぁ、安心する。


『俺だっておっつんとずっと一緒に居てぇよ』

『けど俺ってこんなんだからおっつんに全然優しくできないし今だって泣かせちゃってるし』

『ほんとに俺でいいのかって』

そうか。

兄者も俺と同じ気持ちだったんだ。

よかった。

安心したからか、俺の目からは涙が止まらなくなってしまった。

『ちょ、おっつん泣きすぎ!泣きやめ!』

「うぇぇ、無理ぃ……ぐすっ」

『こら、泣きやまないと押し倒しちゃうよ?』

「はっ…ちょ、待っ」

ドサッと宣言通りにソファーに倒され、俺の視界には天井とニヤニヤ妖しげに笑う兄者の姿。

「あ、兄者っ!?」

『メソメソ泣いてるおっつん見てるともっといじめたくなってきちゃった』

「ふ、ざけんな、なに人の泣き顔で欲情してんだよこのオッサン!!」

『あらあら~このオッサン威勢がいいですね~』

「ちょ、この野郎マジで……あっ、ちょ、どこ触って、んあっ」

『さぁPartyといこうじゃないか!!』






普通に笑いあって、普通に喧嘩して、普通に仲直りして、普通に愛し合って。






俺達にはこれが丁度、いい。





多分、何十年経ってもずっと。




END

レッドカードまであと少し(弟兄)


兄さん誕生日話その2。5/3の弟兄の朝。
(会話文のみです)


















「……ん……」

『あ、兄者起きた?おはよう』

「…はよ…いま何時だ…?



 、い…っ!!…なんだこれ、全身痛ぇぞ…」

『あーごめん、昨日無理させたかな?』

「ほんとだよ全く…喉も痛ぇし…最悪だよ…」

『けど兄者も可愛い声で喘ぎながら「おとじゃぁ…もっとぉ…!!」って言ってたじゃん』

「うるせぇそれ以上言うな」

『「も、イクからぁ…いっしょに…!!」なんて泣きながらキスしてきたのはどこの誰「だから黙れって言ってんだろ」…はーい』

「そもそもお前昨日何回シた?」

『んー…3回?いや4回か』

「おかしいだろ普通2回で充分だろ」

『いやだってあんなにエロく乱れる兄者を見たら我慢出来ないじゃん?』

「馬鹿なの?性欲馬鹿なのお前?」

『ごめんって…次からは気を付けるからさぁ』

「ったく…いてて」

『けどその様子だと今日はどこも行けそうにないね?』

「腰痛てぇし身体痛てぇからな」

『せっかく兄者の誕生日だからどっかお出かけできればって思ってたんだけど…やっぱごめん、俺のせいで』

「…いいよ、気にすんな」

『でも…』

「今日はお前が一日俺と一緒にゲームしてくれたらそれでいい」

『兄者…』

「お前さえ居ればいいんだよ、俺は」

『ッ…』

「俺の誕生日、一緒に過ごしてくれるんだろ?」

『、もちろん!!』

「それで充分だよ」

『…兄者』

「ん?」

『お誕生日おめでとう』

「…サンキュ」

『愛してる』

「…俺も」

『ねぇキスしていい?』

「…いちいち訊くな馬鹿」

『ふふっ、はいはい………ん………』

「ん……ぅ、ん………」

『………っ、は………』

「は、ぁ……ん……ぅ…」

『っはぁ………




 あー…わりぃ、兄者。先に謝っとく』

「へっ…?



 あ、ちょっ、お前、待て、まさかっ…!!」

『もう我慢できねぇ』

「嘘だろお前!!やめろ、離せ、無理だって!!」

『優しくするから』

「馬鹿、ふざけんなお前、無理、無理だから!!



 っ、あ、やだ、いや、やめ…っ、あぁ…!!」




結局この後2回行為に及んだ俺は【性欲ゴリラクソ野郎】という不名誉なあだ名を兄者に付けられ、さらに翌日も動けない兄者を見たおついちさんに『あーあー若いって実に素晴らしいねぇ弟者くぅん?』と散々嫌味を言われたのであった(弟者談)


END

The Bad Day...?









兄さんお誕生日話。御三方出てきます。

乙さんに呼び出される兄さん(腐要素ありません)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

『あ、兄者くん?ごめんねいきなり電話して』

「いや、別に大丈夫だけど。ゲームしてただけだから」

 

休日の夕方、家でゲームをしていると誰かからの着信を知らせる振動音が鳴り響いた。

ひとまずゲームは一時中断して机の上のそれを手に取ると、ディスプレイには【おついちさん】の文字が。

電話に出るとおっつんは突然の電話を詫びる様な申し訳なさそうなトーンで俺の名前を呼んだ。

 

「んで?どうしたんだよ」

『あ、そうそう。悪いけど今から俺ん家来てもらうことできる?』

「随分いきなりだな」

『そうなんだけどさ…ダメ?』

「いや、いいけど…今から準備するからわりと時間かかるかもよ?」

『あーうん、それは大丈夫。ゆっくりでいいから。弟者くんも多分まだかかるだろうし』

「なに、弟者も来んの?」

『来るよ。俺が呼んだからね。ちょっと三人で…ま、詳しい話は後でするから悪いけど準備して来てくれ。それじゃ』

「あ、ちょっとおっつ………

 

………切れた」

 

あの人、一体何を慌ててるんだ?

 

通話の終了を知らせる画面を見つめてしばし疑問に思ったものの、すぐにソファの上に放り投げて代わりに今度はコントローラーを手に取った。

 

「やべ、ちゃんとセーブしとかねぇと」

 

 

 

 

 

 

部屋着を着替え、だらしない寝癖がついたままだった髪をセットする。

 

ふと、出掛ける前にPCを触りTwitterを開くと、数時間前に呟いた俺のツイートに数え切れない程のいいねやリプライが付いていた。

その中には三人称やメロさん、ちんさん、加齢さん達の名前もあった。

皆それぞれに『おめでとう』という意味合い(中には違う人も居るけども。ふざけんなコノヤロー)のメッセージをくれていた。

 

 

そう、今日は俺にとって“そういう日”なのだ。

だからきっと、おっつんが俺を呼んだのも“そういうこと”に違いない。

(そういえばあいつらからLINEもTwitterのリプも来てねぇもんな)

 

いや、別に欲しい訳じゃないけどね?

 

自分で自分にツッコミを入れながら、俺はTwitterを閉じてPCの電源を落とし、鍵を手に取ると部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

『あ、兄者くんごめんね急に』

 

玄関の扉を開けたおっつんはさっきの電話と変わらない、申し訳なさそうなトーンで俺を出迎えた。

 

『弟者くんもう来てるから。入って』

 

促されるまま部屋へ入ると、リビングのソファに座りiPhoneをいじっていた弟者が俺に気付いた。

 

『あ、兄者』

「おう」

 

上着を脱いで隣に座ると弟者は手に持っていたそれを置き、俺の顔をまじまじと見つめながら少し小声で、かつ早口に俺に尋ねてきた。

 

『ねぇ、おついちさん何か変じゃない?』

「変って、なにが」

『いや、なんか…急に俺に電話してきて『今から俺ん家来てくれない?』って言ってきたんだけど、理由聞いても教えてくれないんだよ。『兄者くんも呼んでるからその時言うよ』ってだけしか言わないの』

「あぁ…俺に電話してきた時もそんな感じだったな。何か焦ってたっていうか」

『でしょ?絶対なんか変だよ』

「変、ねぇ…」

 

 

俺はふと考えた。

 

二人して俺を呼び出したのかと思っていたがどうやら弟者の様子を見ているとそうではないらしい。

とすると、おっつんは本当に俺達に何か話があって呼んだ事になる。

しかも、あの様子だとどうやらHappyな話題ではなさそうだ。

 

 

嫌な予感がした。

 

 

弟者の表情を見るに、きっとこいつも同じ事を考えているに違いない。

 

『ねぇ、兄者…』

 

弟者が口を開いた瞬間、

 

ガチャッ

 

リビングのドアが開いておっつんが入ってきた。

 

『ごめんね、二人とも。突然呼びだしておいてお待たせして』

 

やはりその声にいつもの明るさはなくて、ますます俺の中で嫌な予感が膨らむ。

 

『でもよかった、二人とも来てくれて』

『いや、それは別にいいけど…おついちさん、俺達を呼んだ理由は?』

『あぁ、うん…そうだね』

 

おっつんは何かを考えるような、躊躇うような、そんな素振りを見せて、そして一呼吸置いた後、俺達に言った。

 

 

 

『実は今度、仕事で海外に移住する事になったんだよ』

 

『…え?』

 

『知り合いの紹介で、海外の企業からうちで仕事しないかって誘われたんだよね。現地に行って向こうで生活しないといけないから、しばらく日本には戻らないつもり』

 

『ちょっと待っ…』

 

『別に海外からでも君らとゲームする事はできるかもしれないけど、さすがに編集しながらプレイしながらってのは…』

 

『おついちさんっ!!』

 

 

堪らず弟者が立ち上がって声を荒らげた。

 

 

それ以上言うな、とでもいうような大きな声だった。

 

 

『…なに?』

 

『なに、じゃないでしょ!!そんな話俺達聞いてないよ!?』

 

『そりゃそうでしょ、今初めて言ったんだもの』

 

『待ってほんと意味わかんない、何言ってるの?え、俺達、もう一緒に居れないの?』

 

『まぁそういう事だね』

 

『………嘘、だ………』

 

 

ドサッ、と弟者の大きな身体から力が抜けてその場に座り込む。

 

俺はただそのやり取りを呆然と見ているしかなかった。

 

 

おっつんが、居なくなる?

 

 

嘘だろ?

 

 

エイプリルフールは先月だぜ?

 

 

なぁ、おっつん。

 

 

嘘だって言ってくれよ。

 

 

「、ッ」

 

 

言葉が出てこない。

 

 

まるで喉がヒリついたように息がうまく吸えない。

 

 

心臓がバクバクする。

 

 

俺は、

 

 

俺はどうしたらいい?

 

 

「…、なんで」

 

辛うじて絞り出した声を必死に言葉にする。

 

「なんで、俺達に相談なく決めたんだ」

 

『うん、まぁ、そりゃそうなんだけどね。けど二人に言ったところで引き止めるのは目に見えてるじゃない?なんていうか、めんどくさいなーって思ってそういうの』

 

 

平然と言ってのけるおっつん。

 

 

その言葉に俺はトドメを刺された気分だった。

 

 

ズドン、と心臓を撃ち抜かれたような、致命的な一撃だ。

 

 

あぁ、どうしよう。

 

 

泣いてしまいそうだ。

 

 

『おい待てよ、めんどくさいってなんだよ』

 

気付けば隣で弟者が立ち上がっていた。

 

そしてそれは俺が見ても誰が見てもわかるくらいに怒気を放っていた。

 

『なに、なんで怒ってんのキミ』

『ふざけんなよお前、さっきから聞いてりゃ自分勝手な事ばっか言いやがって挙句の果てに俺と兄者の事めんどくさいだぁ?いい加減にしろよ』

『チッ…これだからめんどくさいって言ってんだよ』

『あぁ!?』

 

明らかに不機嫌になるおっつん。

 

二人とも今にも掴みかかりそうな勢いだが、俺は情けない事に身体が動かない。

 

やめろ、と言いたいがその言葉すらも出なかった。

 

もはやただ二人のやりとりを見守るしかない。

 

 

『そもそも今まで黙ってたけどなぁ、俺はお前ら兄弟に言いたい事たっっくさんあるんだよ!』

『はぁ!?なんだよ、言いたい事あるなら言えよ!!』

『あーはいはい、言われなくても言ってやるよ!!弟者お前、今日が何の日か知ってんのか!?』

『はぁ!?知ってるに決まってんだろ!今日は兄者の誕生日だよ!!お前こそ知ってたのかよ!!』

『当たり前だろ、俺が兄者の誕生日を忘れる訳ねぇだろ!!』

 

 

………ん?

 

 

『あーそうかいうかい!!それじゃあおついちさんは勿論プレゼントは用意してるんだろうなぁ!?』

『なに馬鹿な事言ってるんだよお前よりすげぇもん用意してるに決まってんだろうが!!』

 

 

………おい、ちょっと待て。

 

 

『それよりおついちさん、そろそろネタばらしした方がいいんじゃねぇのか!?』

『あぁそうだな!!それじゃせーのでいくぞ!!

 

せーのっ、

 

 

 

 

『『兄者、誕生日おめでとう!!』』

 

 

 

 

 

 

シーン

 

 

 

 

 

『………あ、あれ?』

『………弟者くん、見て。兄者固まってるよ』

『うわホントだ…おーい兄者ぁ?』

『ちょっとビックリさせすぎたんじゃない?』

『えーだって、毎年勘づかれてるから今年は逆にビックリさせてみようぜって言ったのはおついちさんでしょー?』

『いやそうだけどさぁ、俺ら喧嘩してる時の兄者くんの顔見た?ものすっごい悲壮な顔してたよ?』

『マジ?俺演技に集中しすぎてあんま見てなかったわー。だっておついちさんとあんな風に喧嘩する事ないからなんか難しくってさぁ』

『ま、俺ら基本的に仲良しだからねぇ』

 

「へぇ………仲良し、ねぇ………」

 

二人の肩をポンッと叩き、俯いていた俺がそっと顔を上げる。

 

その顔を見るやいなや二人の笑顔がみるみるうちに引き攣り恐怖していく。

 

俺は満面の笑みで言ってやった。

 

「…………お前ら………

 

 

ちょーっと1回、そこに仲良く正座しようねぇ…?」

 

ヒッ、と小さな悲鳴が聞こえたが、無視してやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「…要するに、俺に誕生日のサプライズを気付かれたくないが為に二人で手を組んでしょーもないクソ芝居を打った、と」

『『ハイ』』

「おっつんが俺に電話してきた時から既に芝居は始まっていて」

『ハイ』

「先におっつん家に居た弟者は俺が何も知らずに来るのをニヤニヤしながら待ってた訳だ」

『ハイ』

「そんで計画通りに騙された俺がショックを受けてる様を見てお前らは内心ゲラゲラ笑ってた、と」

『『スンマセンデシタ』』

「すんませんでしたで済むと思ってんのかコノヤロウ」

『『ホントスンマセンデシタ』』

 

仁王立ちの俺と土下座する二人。

 

ったく、しょーもない事しやがって…

 

『あの、兄者さん』

「なんだよおっつん」

『あのですね、わたくし達プレゼントを用意しておりまして、是非お渡ししたいのですが宜しいでしょうか』

「…見せてみろ」

『はっ…有り難き幸せ』

 

差し出された袋を開けると、それぞれ新しいヘッドセットとコントローラー(しっかり青色)、それにフィギュアとそれを並べるためのケースが入っていた。

 

『兄者、欲しいって前に言ってたから…俺達二人で買いに行って…ねぇ?』

 

そうだそうだ、とおっつんがブンブンと首を縦に振る。

 

正直、俺が欲しいと言っていたものばかりだ。

 

これはかなり嬉しい。

 

 

だが、

 

「言っとくけど、これで俺の機嫌が直ると思ったら大間違いだからね?」

 

ここで強固な姿勢を崩しては兄としての威厳がなくなってしまう。

 

耐えろ、俺。

 

『あの、兄者が好きなピザ、頼んでます』

 

耐えるんだ。

 

『食後のバースデーケーキも二人で選んで有名なパティスリーのやつ買ってきました』

 

耐えろ。

 

『冷蔵庫にコーラとお酒、キンキンに冷やして用意してます』

 

耐え………

 

『『機嫌直してくださいお願いします』』

『『兄者』』

『『お願いします』』

「だあぁぁぁもう!!わーったよ!!もう怒らねぇから!!」

『『ほんとに!?やったー!!』』

 

途端に二人に笑顔が戻る。

 

ったく、最初から大人しく祝えばいいものを…

 

 

ピンポーン

 

 

『あ、ピザ来たっぽいね』

『おついちさん俺出てくるね!』

 

バタバタと玄関まで元気よく走って行く弟者の後ろ姿を見送る。

 

とてもじゃないがさっきまで凹んでた奴とは思えない。

 

『けどさ、今回わかった事もあるよね』

「あ?なんだよ」

『兄者くんが本気で2BRO.を大切に思ってるんだなぁって事だよ』

「はぁ!?」

 

おっつんが俺の顔を見てニヤニヤしている。

 

くそっ、腹立つ顔しやがって。

 

『だってさ、俺が海外行くって言った時めちゃくちゃショック受けてたじゃん?実際ショックだったっしょ?』

「…別に」

『またまた~強がっちゃって!三人バラバラになったらどうしようって思ってたくせに』

「思ってねぇし」

『けど安心して。俺はこれからも時給10円20円でしっかり君達の動画を編集させてもらうからね!』

 

君達兄弟は俺が居ないとダメなんだからさ~、なんて言いながらおっつんは俺の背中をポンと叩くとリビングへと消えていった。

 

なんだよおっつんの野郎。

 

何か言い返してやりたかったが結構痛い所を突かれたので何も言い返せなかった。

 

今度ゲームでボッコボコにしてやるから覚悟しとけよ。

 

『あれ、どしたの兄者。顔赤いよ?』

 

ピザを両手に花状態の弟者が戻って来た。

 

『もしかしておついちさんに何か言われた?』

「…なんでもない。いいから早くそのピザ食わせろ」

『そうだねぇ冷めないうちに食べないと。おついちさーん!』

『はいはいちょっと待ってねー』

 

程なくしておっつんがリビングから戻って来たので、俺は手にしていたiPhoneを置いて目の前のグラスを手に取る。

 

『『それじゃ、改めて。

 

 

 

 

お誕生日おめでとう、兄者』』

 

「…サンキュー」

 

 

グラス同士がカチン、と鳴る心地いい音が部屋に響いた。

 

…ま、何はともあれ、この二人に祝ってもらえるなら悪くない夜になりそうだ。

 

 

 

Twitterの新しい投稿】

兄者:ピザとケーキでお祝いされてるなう。なんだかんだ言って祝ってもらうのは嬉しいもんだね。

 

END

風吹く街、君の隣(弟乙)

 

 






弟乙ほのぼの系。春ですね。

(以前Twitterにあげたものをこちらに移しました) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、見て弟者くん。桜が咲いてる」

 

 

先にそれを見つけたのはおついちさんの方だった。

 

 

 

 

 

恒例となった、二人でお酒を飲みながらのホラーゲーム実況。

いつものようにキリの良いところで放送を終了し、さぁもう少し飲もうか、といった時に

 

「やべ、つまみ切れちゃった」

「ちょっとぉ、弟者くん食べすぎじゃない?」

「そんな事ないって!ちゃんとおついちさんにもあげてたでしょ?」

「あぁそうだね、ただピーナッツばっか口に放り込まれてたけどな」

「ふふっ、ごめんって…!」

 

そんな他愛ない会話を交わしながら、俺達は近くのコンビニまで買い出しに行く事になった。

ちょうどお酒も少なくなってたし、いい機会だ。

 

「…寒っ、ちょっと冷えるな」

「春とはいえ、まだまだ寒いからねぇ」

 

外は風が強く吹いていた。

冷たい外気を鼻腔から吸い込む度、ほろ酔い気分の俺の頭は少しずつ覚醒していく。

隣を歩くおついちさんは、どこか楽しそうに夜空を見上げながら鼻歌なんて歌い出していた。

前向いてないと躓いてコケるんじゃねぇかこの人、なんて余計な心配が尚更俺を冷静にさせたがその心配はどうやら杞憂だったらしい。

何事もなくコンビニに着き、適当にお酒とおつまみを調達した後、来た道を戻る。

 

と、思ったら

 

「弟者くん、帰りはあっちの道から帰ろう?」

 

おついちさんが指差したのは、さっき通ってきた道とは違う少し通りから奥まった道。

 

「え、別にいいけど…どうしたの?」

「んー…なんとなく、もうちょっと散歩したいかなーって」

 

そう言ってコンビニ袋をガサガサと揺らして笑うおついちさん。

その笑顔を見て、彼の意見に乗らない理由はなかった。

 

 

 

帰り道はさっきより静かな住宅街。

深夜一時を過ぎた街は家々の明かりもほとんど無く、街灯だけが俺達の行く道を照らしていた。

 

「静かだね」

 

おついちさんが笑う。

 

「当たり前でしょ、こんな時間だからねぇ」

 

俺もつられて笑う。

二人の間で強い風に吹かれてガサガサと鳴るコンビニの袋。

あぁ、幸せってこういう事なのかな。

漠然と、でも確証的な感覚に思いを馳せていると

 

「あっ、見て弟者くん。桜が咲いてる」

 

おついちさんが指差したのは、小さな公園内にひっそり咲いている桜の木。

 

「へぇ、もう咲いてたのかー…うん、ちょっと見に行こ」

「あっ待っておついちさん」

 

ぴょんぴょんっと駆けて公園に入っていくおついちさんを慌てて追いかける。

 

「はぁ…おついちさん走るの早いよ…」

 

少し遅れて追いついた俺に構いもせず、おついちさんは木の下でジッと桜を見上げている。

公園内は勿論人影もなく、ただ街灯のみが桜の木を淡く照らしていて。

その光がおついちさんの横顔にぼんやりと差し込むと、彼の長い睫毛の一本一本を縁取るように浮かび上がらせる。

 

 

俺は、息を呑んだ。

 

とても綺麗だ、と。

 

 

「ねぇ弟者くん」

 

おついちさんの声にハッとする。

 

「桜ってさ、儚いよね」

「…?」

「人と違って、あっという間に散っていくんだもの」

 

 

でも、とても綺麗だ。

 

 

振り返っておついちさんが笑った。

 

強い風が吹き抜ける。

薄ピンク色の花びらがヒラヒラと舞う。

あまりに幻想的な光景。

 

けどその時俺は、何故かその花びらに包まれて、おついちさんが消えてしまいそうな気がして。

 

このままどこかに行ってしまいそうな気がして。

 

胸がキュッと痛んで。

 

「…おついちさん!」

 

 

駆け寄って、おついちさんの身体を力強く抱きしめた。

 

衝撃でガサリ、とコンビニの袋の音が鳴る。

 

「わっ…弟者、くん…?」

「おついちさん…好きだ」

「なになに、どうしたの急に」

「好き…好きだよ、おついちさん」

 

 

だからどこにも行かないで。

 

 

「…弟者くん」

 

宥めるような優しい声。

 

「俺はどこにも行かないよ」

 

包み込むような優しい声。

 

「俺の居場所は弟者くんの隣だからね」

 

あぁ。

全部わかってるんだな、この人。

 

「弟者くん、好きだよ」

 

くそっ。 悔しいけど、勝てねぇわ。

強い風が吹き抜ける。

思わずおついちさんを抱く腕に力を込めると、それに応えるようにおついちさんも俺の背中に手を回して抱き返す。

花びらがハラハラと舞う中、街灯の淡い光と桜の木だけが抱き合う俺達を見ていた。

 

 

 

 

 

…どれくらいこうしていただろう。

 

「…そろそろ帰ろっか」

 

ふふ、とおついちさんがはにかんで離れる。

 

「…そうだね、帰ろう」

 

俺もその笑顔につられて笑う。

 

「おついちさん、家帰ったらまた飲むんでしょ?」

「何言ってんの、その為に買い出し来たんでしょうが」

 

だからほら、早く帰ろう?

おついちさんが俺の手をとり、指と指を絡める。

 

「あら、随分大胆だねぇ?」

「誰も見てないんだからいいでしょ」

 

手を繋いでゆっくりと家路を歩く。

外の風はさっきよりも一段と冷たくなった気がするが、相変わらずおついちさんは隣で鼻歌を歌ってる。

 

「ねぇおついちさん」

「んー?」

「来年も一緒に桜、見ようね」

「…そうだな」

「あ、でも」

 

 

「「兄者には内緒でね?」」

 

 

二人で声を揃えて笑う。

強い風はもう、吹いていなかった。

 

 

END